交通事故被害者向け|休業損害はどうやって計算する?
交通事故に遭うと、事故の影響で私生活にも様々な影響が出ます。特に、人身事故であった場合には、治療のために数ヶ月間仕事や家事を休まなければいけなくなってしまうこともあるでしょう。
交通事故の損害賠償では、このような損害を補償するため「休業損害」というものが請求できます。これに関しては、実は自分でも大まかな計算が可能です。
そこで今回は、休業損害の計算方法について解説します。休業損害の基本の計算方法から、職業別の計算方法、計算の際に気をつけるべきこと等、必要なことをすべて説明しますので、交通事故被害者の方は是非ご一読下さい。
このコラムの目次
1.休業損害について
まずは、休業損害とその計算式の基本について説明します。
(1) 休業損害とは
そもそも休業損害は、何のためにあるのでしょうか?
交通事故被害で怪我をすると、治療のために一時的に働けなくなってしまうことがあります。働けないということは、収入が得られず生活ができないということです。
働けないことによる経済的損失を、加害者に補償させようというのが休業損害の考え方となります。
したがって、休業損害とは、事故の影響で仕事等ができず、得られなかった収入のことを指します。
(2) 休業損害の計算方法
①自賠責基準
休業損害についてはいくつかの計算方法がありますが、基本となるのは自賠責保険による計算方法です。
自賠責保険は強制加入の保険のため、ドライバーなら誰もが加入している保険です。そのため、自賠責保険による計算方式で計算した休業損害の額は、必ずもらえる最低保証額と考えれば良いでしょう。
自賠責保険の計算式は以下の通りです。
6,100円×休業日数=休業損害
自賠責保険は日額6,100円と定まっているため、計算しやすいのがメリットといえます。もっとも、1日に6,100円以上稼ぐことを証明できれば、1日1万9,000円まで損害額が認められることがあります。
ちなみに、休業日数には有休を利用したケースも含まれます。
②弁護士基準(裁判基準)
弁護士に依頼した場合や、裁判を起こした場合には、自賠責とは別の計算方式が用いられます。一般的には、弁護士基準や裁判基準と呼ばれています。
計算式は以下の通りです。
基礎収入(1日あたり)×休業日数=休業損害
裁判で利用される計算式では、自賠責とは異なり一律な額が設定されていません。その代わりに、基礎収入というものを算出し、それを休業日数とかけ、休業損害を割り出します。
「基礎収入」とは、その名の通り休業損害計算の基礎となる収入のことであり、一般的には過去3か月の収入を基礎に1日あたりの収入を割り出します。
もっとも、職業によって基礎収入の計算方法は変わってきますので、詳細は次項の「2.職業別の計算方法」にて後述します。
裁判での計算方式では、実際の収入に近い額で割り出すことができる点がメリットです。
2.職業別の計算方法
次に、職業別の休業損害の計算方法を解説します。
(1) 会社員・自営業者の休業損害
実は、給料をもらっているサラリーマンの方と、ご自身で自営業を行っている個人事業主の方では、先に紹介した基礎収入の計算方法が異なります。
それぞれ実際の計算方法を見ていきましょう。
①会社員(給与所得者)の場合
サラリーマンの場合の基礎収入の計算方法は、上記の通りです。交通事故直前3ヶ月の給料から日額の収入を割り出します。
この収入には、手当や賞与なども含まれます。会社から休業損害証明書を貰えば、簡単に計算可能です。
会社員が事故で10日間会社を休んだ場合(月額給与25万円)
(25万×3÷90)×10日=8万3333円
②自営業者(フリーランス、個人事業主)の場合
自営業の方の場合は、交通事故前年の申告所得を元に基礎収入を計算します。具体的には以下のような計算式です(これ以外にも計算式はありますが、基本的には以下が採用されています。)。
自営業者が事故で10日間仕事を休んだ場合(前年所得400万円)
400万円÷365日×10日=10万9589円
自営業者の場合、これ以外にも計算式はありますが、基本的には上記が採用されています。
(2) 主婦・アルバイト・学生の休業損害
主婦の方が交通事故被害者となってしまった場合、「休業損害が請求できないのでは?」と心配される方が多くいます。
しかし、実際は主婦でも休業損害を請求できるため安心して下さい。また、非正規雇用やアルバイト、学生でも請求できるケースもあります。
以下、実際の計算式を見ていきましょう。
①主婦の場合
主婦の場合は、家事が労働としてみなされます。家事労働は他人に依頼すると料金が発生するため、よく考えてみると当たり前のこととも言えます。
もっとも、実際いくらになるのか値段をつけることは難しいため、「賃金センサス」を利用することで基礎収入を割り出します。
賃金センサスとは、厚生労働省が毎年出している、年齢や学歴、性別ごとの賃金平均です。
平成29年の《学歴計・女性》の年収をみてみると、30-34歳で376万5500円となっています。これを基礎に一度計算してみましょう。
32歳主婦が事故により10日間家事労働に従事できなかった場合(賃金センサス:376万5500円)
376万5500円÷365日×10日=10 万3164円
②アルバイト、学生の場合
学生の場合、働いていない場合には休業損害は発生しません。しかし、アルバイトで収入を得ていた場合には、休業損害を請求することができます。
もっとも、アルバイトの場合でも、1年以上同じアルバイトを続けていることが必要であるなどの条件があります。
基礎収入は、給与所得者と同様に計算し、給与証明から計算することができます。
事故により学生が10日間アルバイトを休んだ場合(3ヶ月25万円)
(25万÷90日)×10日=2万7777円
このように、主婦やアルバイトでも休業損害は請求可能です。
3.休業損害の計算で気をつけるべきこと
最後に、休業損害の計算で気をつけるべきポイントを説明します。
(1) 会社員は正確に休業損害証明を発行してもらう
会社員の方が休業損害を請求する際は、休業損害証明書が必ず必要となります。この内容については、ご自身でしっかりと確認するようにしましょう。
証明書自体は、一般的には任意保険会社から送付されてきますので、ご自身で用意する必要はありません。送付された証明書を、会社の人事部または総務部に渡し、内容を記入してもらいましょう。
休業損害証明書には、氏名、役職、給与額、休業した日、給与の支給・不支給、支給額など事細かに記入する必要があります。
慣れていない方にとっては、少し内容がややこしいため、間違った記載がないかご自身で確認する必要があります。適切に記入してもらわないと、休業損害の最終的な額が減ってしまう可能性もあります。
また、まれに会社が休業損害証明書を作成してくれないという事態も発生しています。この場合は、弁護士に相談し出来る限り休業損害証明書を発行してもらうように働きかけましょう。
(2) 休業日数は、単純に「休んだ日」ではない
「休業日数=休んだ日」と考えてしまうと、正確な額が計算できなくなってしまいます。
ここでも職業別で計算方法が異なってきますので、会社員、自営業者、主婦、アルバイト、それぞれの計算方法を見ていきましょう。
- 会社員の場合は、仕事を休んだ日が休業日数といえますが、これは医師から自宅で安静にするように指示があった場合に限ります。自己判断で休んだ日については、計算しない場合もありますので注意しましょう。
- 自営業者の場合は、会社員よりも休業日数の判断が難しくなります。基本的には、怪我の内容や程度、治療期間、事業の内容等の事情を総合的に考慮し、休業の必要が認められる範囲でのみ休業日数としてカウントします。
- 主婦の方の場合は、怪我の内容や程度、治療期間、家事分担の程度、その他家庭の事情などを考慮し、休業日数を算出することになります。実際上は、入通院期間か入通院日数で計算、あるいは家事労働ができなくなったパーセンテージに合わせて算出していく方法などがあります。
- アルバイトの場合は、会社員と同様に治療のために仕事を休まなければならなくなった日を指します。ご自身の都合で休まれた日は含まれませんので、ご注意下さい。
休業日数の計算方法でもめてしまうケースもあります。保険会社の計算した日数に納得ができない場合は、弁護士にご相談下さい。
4.休業損害の計算で納得できないなら弁護士に相談を
休業損害の計算は、基本的には「1日の収入×休業日数」で計算できます。しかし、実際に計算してみると、基礎収入であったり休業日数であったり、難しい部分が多く出てきます。
ご自身で算出してみた額と、加害者側の任意保険会社から提示された額に大きな開きがある場合もあるでしょう。任意保険会社は裁判で算出する計算方式よりも少し低い基準を用いて算出しているため、このような違いが出てきます。
任意保険会社が提示した休業損害の額に納得できない場合は、そのまま示談に応じる必要はありません。弁護士に相談し、裁判基準で計算した上で適正な休業損害を請求しましょう。迅速に解決したい場合、プロである弁護士に任せてしまうのが一番の近道です。
泉総合法律事務所では、交通事故案件を多数取り扱っており実績も豊富です。適正な休業損害の額についても、弁護士が計算してご提示します。
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