FX取引や株式投資が原因で自己破産するときの注意点
FX取引や株式投資は、インターネットの発達によりネット証券による仲介や各種アプリの発展、SNSでの情報共有が進み、手軽な投資手段となりました。
しかし、相場が混乱するたびに、巨額の借金を背負うことになってしまう方が後を絶ちません。
投資による借金はギャンブルや浪費に当たるから自己破産できないという噂がしばしば流れ、相場の混乱に伴う投資家たちの悲鳴を煽っていますが、まったくそんなことはありません。
もっとも、投資による自己破産では、自己破産手続にもともとあるリスクやデメリットについて、より注意する必要があることも確かです。
ここでは、FXや株式投資による借金を自己破産で無くしたい方に向けて、自己破産に失敗してしまうリスクと、自己破産手続のデメリットについて説明します。
このコラムの目次
1.FX取引・株式投資と自己破産
(1) FXや株の投資による借金でも自己破産はできる
自己破産手続は、支払不能な借金を裁判所に申し立てをして、財産のほとんどを債権者に配当する代わりに、原則すべての借金を免除してもらう債務整理手続です。
自己破産手続で借金が免除されることは、「免責」と呼ばれています。
冒頭で説明した通り、FXや株式投資による借金でも、自己破産に成功すれば無くなります。
確かに法律上は、FXや株式などへの不適切な投資は、ギャンブルや浪費も同然だとして、原則として借金が免除されない事情(法律上、「免責不許可事由」と呼ばれています)とされています。
しかし、実務上、免責不許可事由のある債務者が免責されないことは、極めてまれです。
裁判所が債務者の一切の事情を考慮して免責を認める「裁量免責制度」があるためです。
特にギャンブルや浪費による借金は、自己破産に至ってしまう原因の中でもかなりの割合を占めます。ギャンブルや浪費をしていたから自己破産を認めないとしていたら、自己破産制度がほとんど利用されなくなってしまいます。
そのため、FXや株式投資による損失があったとしても、それだけで免責されないということはまずありません。
ただし、あらゆる人が裁量免責を受けられるわけではないことも事実です。以下のような場合には、本当に借金がなくならないこともあります。
- FXや株式投資に伴って不適切な行為をしてしまったなど、ほかの免責不許可事由がある場合
- 自己破産手続中に、反省の態度を示さないなど、悪質性が高いと判断されてしまった場合
まずは、どんな場合に自己破産に失敗してしまうのか、その対策は何かを説明しましょう。
(2) 自己破産に失敗するおそれが高くなる場合
以前に自己破産をしたことがある場合
申立て前7年以内に自己破産をしていることは、それだけで免責不許可事由になります。
なお、7年以上前に自己破産したことは、免責不許可事由にはなりませんが、また自己破産することについて、裁判官の目は厳しくなるでしょう。
まして、前回も投資で失敗して自己破産したにもかかわらず、凝りもせずまた投資をして借金してしまった場合には、反省の色が見られないとして、裁量免責されない可能性が高くなります。
自己破産で借金をなくしてもらえるのは、生活を再建してあげるためです。また、裁量免責は、債務者が反省し、生活を再建する能力と意思があると認められることが重要なポイントになります。
投資でまた自己破産をしてしまったという場合、今度こそしっかりと反省して、投資に手を出さない決意を示すことが不可欠になります。
手続中の投資
自己破産手続開始後に手に入れた給料などは、新得財産と呼ばれ、配当されずに自由に利用できます。
しかし、新得財産をまた投資につぎ込むようなことをすれば、自己破産後も投資でまた借金をしてしまうのではないかと疑われてしまいます。
投資による借金で破産する場合、裁判所は、免責不許可事由や債務者財産の調査を行う「破産管財人」を選任します。破産管財人に対して、手続中の投資を隠しとおすことはできません。
次で説明しますが、破産管財人にウソをつくことは、それだけで裁量免責が認められなくなるおそれすらある重大な免責不許可事由になります。
投資にまた手を出してしまった場合は、指摘される前にすぐに弁護士や破産管財人に正直に話して、反省を伝えましょう。
複数の免責不許可事由がある
免責不許可事由が複数あれば、その分、裁量免責される可能性は低くなります。
FXや株式投資による借金を自己破産で無くそうとする方がしてしまいがちな免責不許可事由は以下の通りです。
- 偏頗弁済
全ての借金を返済できない状態なのに、特定の借金だけ返済することは、免責不許可事由になります。例えば、友人からの借金や担保のあるローンだけ返済してはいけません。 - 詐害行為
投資による借金を穴埋めするため、財産を安く売る、または譲ることは、詐害行為という免責不許可事由になるおそれがあります。 - 財産隠し
預金残高を他人の口座に送金する・不動産の登記名義を他人に変える・解約返戻金のある保険契約の名義人を他人に変える、などの行為は、悪質な「財産隠し」に当たります。
2.FX取引や株式投資が原因で自己破産をする際の注意点
(1) 財産の処分
自己破産手続は、借金を帳消しにするという大きなメリットの代償として、様々なデメリットがあります。
代表例が、財産の処分です。自己破産手続では、一定以上価値を持つ重要な財産が、債権者に配当されるために処分されてしまいます。
FXや株式投資が原因で自己破産をする方は、投資以外にも財産を持っていたところ、相場の急激な変動により、全財産をはるかに超える借金を負ってしまうことがあります。
そのため、現金や預貯金はもちろん、持ち家や自動車、保険の解約返戻金など、多くの財産を失うおそれがあります。
もっとも、一定の生活に必要な財産は残されます。たとえば、高級品を除く日常家具は処分されません。これを「自由財産」といいます。
自由財産制度は、財産を処分されないようにするための対策として重要になります。
しかし、自由財産の範囲は、各裁判所や具体的な事情によって異なりますので、下記の説明はあくまで目安とし、弁護士にしっかりと確認することを忘れないでください。
- 99万円の現金
- 20万円までの預貯金
- ローンがなく、査定価値が20万円以下の自動車
- 退職金の一部
(2) 資格制限
「証券会社や金融機関で働き、そこで得た知識を資産運用に活かそうとして失敗してしまった」という方もいらっしゃるかもしれません。
自己破産手続が始まると、他人のお金を取り扱う資格や職業で働けなくなります。
証券外務員や商品投資販売業、商品投資顧問業、金融商品取引業などの資格も制限対象となっています。
企業は、自己破産をした事実が掲載される官報をチェックして、従業員が自己破産していないかを日々確認しています。黙っていれば解雇されるおそれがあります。
勤務先には、自己破産をすることをしっかりと打ち明けましょう。
免責されれば資格制限は無くなります。
トラブルがない限り、たいていは手続開始から4~6か月で免責を受けられますから、その間は休職するか、資格を利用しないで働くことのできる部署に転属させてもらいましょう。
(3) 保証人への請求
たとえば、まだ若い方が大学の奨学金を返済しきっていなければ、自己破産手続をすることで、保証人となっている親に残額の一括請求がされます。
保証人への連絡と相談は不可欠です。
(4) ブラックリスト
自己破産手続を含む債務整理をすることで、信用情報機関に債務整理の事実が登録されます。これが、いわゆるブラックリストへの登録です。
あらゆるローンが組めなくなりますし、新規クレジットカードが作れなくなります。他人の保証人にもなれませんし、スマホの割賦払いもできません。
もっとも、長くとも10年経過すればブラックリストの登録は削除され、またローンが組めるようになります。家族が登録されることはありません。
また、銀行の預金口座は開設できます。
3.FXや株式投資による借金の整理は弁護士に相談を
FXや株式投資による借金は、市場の変動というどうしようもない事情により、突然巨額の借金を背負ってしまうことになるという大きな問題点があります。
インターネットでの情報共有をしつつネット証券でトレードを行うというスタイルが基本であるためか、市場が混乱したときには、悲観的な声がSNSなどで溢れかえることもあります。
問題は、投資による借金では破産できないというデマがそのたびにふりまかれていることです。
ここでは投資を原因とした自己破産でしばしば問題となることを説明しましたが、総じて結論を言えば、投資による借金を自己破産で無くし、生活を再建することはほとんどの場合可能です。
まずは落ち着いて、専門家である弁護士に相談しましょう。
多くのリスクやデメリットも、弁護士によるサポートで回避や抑制が可能な場合は多いのです。
泉総合法律事務所では、自己破産により借金問題を解決した実績が多数ございます。是非ともお気軽にご相談ください。
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